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「ねー、先輩。ここまで来たら、認めちゃったほうが楽ですよー」
「何を」
「カイさんのコト、好きになっちゃったんじゃないですかー?」」
カラン、と。手の内で溶け出した氷がグラスを叩き、高音を響かせる。
言葉を受け取るのに数秒。そして脳に届くまでさらに数秒。
そこから音を理解するまで、更に十数秒。
「……は?」
たっぷりと。時間をかけてから漏れ出た声は妙に情けなく部屋に響く。
好き? 俺が、カイさんを?
確かに、俺がカイさんに何かしらの嫌悪を抱いたのならば、ばいくら由実ちゃんの為とはいえ、こんなに多大な時間と労力を費やしてまで"オトモダチ"になろうとはしなかっただろう。
「あんなヤツ、止めなさい」。さながら顔だけで素行の悪い彼氏に引っかかった娘に言い聞かせる父親のように、カイさんの人と成りを事細かに由実ちゃんへ告げて、カイさんとの接触もそれきりになった筈だ。
けれども"そう"ならなかったのは、カイさんを好ましく思ったから。
"好き"かどうかと訊かれれば、答えは勿論。
「……いちおう、言っておきますけど」
つらつらと流れる思考の波を、時成の呆れ声が遮る。
「おれの言ってる"好き"ってのは、"like"じゃなくて"love"の方ですからねー」
「、」
「そんな"今初めて聞いた"みたいな顔しないでくださいよー……。正直、"カイさんの言動が気になる"、"カイさんの表が知りたい"、"とにかく四六時中頭に浮かんでる"って時点でワリと条件は揃ってるんですけどねー。ユウちゃん先輩の鈍感さはピカイチですし、どうせ言っても認めないでしょーから様子見してたんですけど」
「そこに"恋愛対象が気になる"って入れば、もう言い逃れも出来ないんじゃないですかー」と。
どこか勝ち誇ったような顔で笑みを浮かべる時成に、思わず怯む。
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