カワイイ俺のカワイイ自覚

2/21
前へ
/238ページ
次へ
人、人、人。 ジリジリと照りつける日差から逃れるように日傘をしっかりと片手に持ち、離れた前方の背中を追いかけるように一歩を踏み出す。 「わ、やっと動いた」 「そうだな」 同じく一歩を踏み出しながら嬉しそうに声を上げる俊哉に返した声は、我ながら随分と素っ気ない。 だが、当の本人はそれよりも近づく目的の看板に興奮冷めやらずといった様子で、そわそわと伸びたり横から伺ったりと前方チェックに勤しんでいる。 小学生程度の少年なら微笑ましい光景だろう。 だが成人済みの、それも図体がデカイ俊哉では周囲の視線を集めるだけだ。 「落ち着け」と。肘で小突きながらも偵察の様子を伺う。 なんせ俺の身長では背中が二つしか見えない。 「あと、どんくらいだ?」 「えっと……二十人くらい?」 「遠いな」 示された数字にゲンナリと息をつく。 俺達の並ぶこの長蛇の列のお目当ては、海外セレブ御用達だというシュークリーム。 ご所望は我らが姫、俊哉の妹の由実ちゃんだ。 なんでも先週ここ秋葉原に三号店をオープンし、超絶人気を誇るシュークリームは昼過ぎには売り切れてしまうことが常なようで、確実に手に入れるにはオープン前から並ばなければならないらしい。 そこで白羽の矢が立ったのが、時間に余裕のある俺達。 俺は毎週木曜日は授業がなく、俊哉は午後からの講義だ。 良いように使われる兄(俺は"兄貴分"だが)二人。 大切な妹のおねだりには弱い。 "買ってくる"の一択しか持たない俺達がいそいそと並び初めてから、もうすぐ二時間が経とうとしている。 開店前の一切進まない列に立ち続けるという苦行よりは、微々たるものだが前進している現状の方がいくらかマシだ。
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!

145人が本棚に入れています
本棚に追加