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「何個買うんだ?」
「六個だったかな。家の分と、友達の分」
「こんなに待って六個かよ。どうせなら十個くらい買っていけ」
「そんなに食べきれないよ」
労働分の元をとれ、と腕を組む俺に、俊哉が困ったように苦笑する。
「そういえば、ユウちゃんは買うの?」
「そうだな……」
また一歩を詰めながら、数人の顔を思い浮かべる。
初めは自分用として一つ買って帰るつもりだったが、足から伝わる痺れに気が変わった。
「五個くらい買っとくか。親父と母さんに渡しといてくれって、おばさんに頼んでおいてくれるか?」
「うん、わかった。でも一人二つも食べるかな?」
「ちげーよ。二つ渡して、残りは俺の」
「三つも食べるの!?」
「食べ過ぎだって!」と言う制止も分からないでもないが、それくらいしないと割に合わないと思ってしまうのは本来のガメつさ故かもしれないが、理由は他にもある。
コレだけ人気があるのなら、物珍しさだけではなく味も伴っているのだろう。
調査も兼ねてじっくり味わい、店に取り入れようという魂胆だ。
適当に会話を繋げつつ人の波に乗っていくと、徐々に強くなる甘いバニラの香り。
先に四角い箱を手にした戦友が一人、また一人と顔を綻ばせながら去る度に、俊哉のソワつきは大きくなり、俺も妙に高揚してくる。
「お待たせいたしましたー!」
やっとの事で踏みしめた小窓の前。明るいお姉さんの声と達成感に思わずハイタッチをかましかけたが、何とか理性で繋ぎ止める。
肩まで上がっていた俊哉の手は、手首を掴んで下ろしてやった。
注文を訊かれ、予定通り六個しかオーダーをしなかった俊哉に心の中でチキンめ、と悪態をついて、自身の分を注文する。
俺は有言実行派。勿論、五個だ。
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