カワイイ俺のカワイイ自覚

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逃がすか。 手早く小袋を俊哉へ押し付け、「じゃあな!」と急いでその人を追う。 「あ、ちょっとユウちゃん!」と。俊哉の声が届いた気がしたが、構っている暇はない。 箱の中のシュークリームが崩れないよう抱えた腕を固定しながら、黒髪のその人へ駆け寄って手を伸ばす。 が、そう言えば、触れてはいけない規則だった。 「っ、カイさんっ」 切れ切れの呼びかけに、その人が振り返る。 自然のままの黒髪がサラリと宙に靡き、べっ甲色のフレームの奥で大きく見開かれる両目。 いつもよりも、薄化粧の。 「っ、ユウちゃん!?」 「よ、かった……追いついた」 安堵に深く息を吐き出しニコリと笑顔を向け、困惑の表情で見つめるカイさんに腕の中の箱を掲げてみせる。 書かれた店名に気づいたカイさんが、目を見張る。 「あ、それ……」 「二つまでなら、お渡しできますよ?」 大通りの喧騒を離れ、やってきたのはとある商業施設横のベンチ。 平日の日中は人通りが少なく、公園よりも落ち着ける隠れスポットだ。 まぁ、目の前は時折往来する車と雑居ビルの裏側というこの街らしい景観なので、面白味は一切ないが。 「ホントに良かったの?」 戸惑いがちに見上げるカイさんの手には、薄い卵焼き色のシュークリーム。 販売員のお姉さんが忙しいながらもしっかりと口拭きを添えていてくれたお陰で、手を汚さないようクルリと巻きつける事が出来た。 「一人で三つなんて食べ過ぎだって友人に言われたトコだったんで、むしろ助かりました」 そう笑いながら自販機で買ってきたカフェオレをカイさんに手渡す。 「ありがとう」と遠慮がちに眉根を寄せるカイさんに苦笑して、隣に腰掛けると俺もシュークリームを手にする。
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