カワイイ俺のカワイイ自覚

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苦行の成果、努力の賜物。 神々しく輝いて見えるシュークリームを手に、そう言えば無反応だなと横目で様子を伺う。 と、未だ踏ん切りがつかないのか、シュークリームとにらめっこを続けるカイさん。 面白い、が、いつまでもそうしていては、せっかくのシュー生地が乾燥してしまう。 「無理矢理詰め込まれるより、美味しく食べられた方がそいつも俺の胃袋も幸せです。ということで、遠慮なく一気にガッといってください」 片手でガブッと演じてみせた俺に、カイさんは薄く吹き出しながら「そっか」と笑う。 「でもさすがに、一気は厳しいかな。それにせっかくユウちゃんから貰ったモノだし、ちゃんと味合わないと」 (やっといつもの調子だな) 胸中で安堵の息を吐きながら「大げさですよ」と苦言を零した俺に、カイさんは「そんな事ないよ。大事に、いただくね」と微笑んで、細くて長い指先を口元に寄せるとはくりと食む。 思った以上に小さな一口。 それじゃあクリームまで辿り着かなかっただろうな、という俺の予想は、断面からみえた白いホイップに杞憂に終わる。 モグモグと。 噛みしめる度にカイさんの目が徐々に輝き、次いでバッと勢いよく俺を向く。 「ユウちゃん! 食べて!」 「へ?」 「絶対、気にいるから!」 (あれ? なんかちょっと) 戸惑いながらも強い瞳に促され、慌てて俺も一口を食む。 サクッとした表面の中は弾力のある皮がふわりとカスタードクリームを包み、生地の端までたっぷりと入れられたポイップは思った以上に口当たりが軽い。 さり気なく香る柑橘系の香りはレモンだろうか。 さっぱりとした甘みのある生地と混ざり合い、口の中で溶けていく。 「っ、おいしい」 感動を零した俺に、カイさんが嬉しそうに目元を緩める。 「ね?」 たった、一言。 それだけなのに、ふわりと頬に朱を乗せた笑顔が、眼の奥に焼き付く。
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