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「っ、」
ドクリ。
大きく高鳴る心臓。その一回を合図のように、ドンドン早くなっていく。
(なん、)
何だんだと。困惑の中で浮かんだのは時成の言葉。
"カイさんのこと、好きになっちゃったんじゃないですか"
(ちがう、そんなんじゃ)
振り切るように再びシュークリームへ齧りついて、意識を別に向けようと躍起しながら紅茶を流し込む。
チラリと視線だけで伺ったカイさんは、やはり嬉しそうに小さな一口を咀嚼している。
周囲にホワホワと漂う無数の花が見えるのは、気のせいではないだろう。
余程感極まっているのか、先程まで片手で持っていたシュークリームはいつの間にか大切そうに両手で包まれている。
モグモグと動く頬。
コクリと飲み込んで、また小さなひと噛り。
(なんか……小動物みてー)
過ったハムスターやらリスやらの食事シーンに、ハッと気が付き頭を抱える。
カワイイと。反射で浮かんだ感情は、絶対に気の迷いだ。
大体、俺よりも身長の高いカイさん相手に"小動物"はないだろう。
(しっかりしろ、俺)
なんだか頭痛がしてきた。現状から目を背けるように一度ギュッと瞼を閉じてみるも、当然、何かが変わるワケではない。
むしろ、黒くなった視界に更に妙な映像が浮かびそうで、そうなる前にと渋々開く。
ふと。目に入ったのは、カイさんと俺の間に置かれたカフェオレの缶。
未だ手付かずのそれに、飲まないのだろうかと疑問が浮かび、そして直ぐに気がつく。
箱にシュークリームを戻せる俺とは違い、片手が塞がったままのカイさんにはプルが開けられないのだろう。
(言ってくれればいいのに)
俺の手を煩わせまいと黙っていたのだろう。
"徹底"し過ぎなのも考えモノだな、と嘆息しながらシュークリームを箱に下ろし、カフェオレを手にしてプルへ指先をかける。
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