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カキリ。響いた音に気づいたのだろう。
はっとしたように顔を向けるカイさんに、「お好きな時にどうぞ」と笑みながら缶を元の位置に戻す。
「ゴメンね」。言葉を探すように視線を宙に彷徨わせてから、やっと返って来た言葉。
微妙な表情。もしかしたら、余計な事をしてしまったのかもしれない。
「あ、スミマセン。勝手に」
「ううん。ありがとう」
言うが、その顔は別のことを考えている顔だ。
「もしかして、後で飲もうとしてました?」
直球で尋ねた俺に、カイさんが「えーっと……」と口籠る。
先程もそうだったが、なんだかいつもよりも砕けた印象なのは、"仕事"ではないからだろうか。
首を傾げながら待つ俺に、カイさんは軽く頬を掻いて照れくさそうにはにかむ。
「ユウちゃんて、カッコイイよね」
「え?」
突如の言葉に、跳ねる心臓。
「今の、とか。気遣いっていうのかな。良く見ててくれて、自然とやっちゃうし。あ、もちろんカワイイってのは、大前提だけど」
慌てて付け加えられたのは、それこそ俺への気遣いだろう。
"カワイイ"は、俺にとって最大の褒め言葉だった。
でも、それよりも。
今、告げられた"カッコイイ"の一言が、砲弾に似た破壊力を持って俺の心臓を撃ち抜く。
バラバラに砕け散った俺の中の"何か"。
早く拾い集めなければと脳裏で叫ぶ声が聞こえるのに、衝撃に立ち竦んだまま噴煙がキラキラと漂う様を見ている事しか出来ない。
(ああ、もう、どうして)
"動けない"のか、"動かない"のか。もう、その判断すら。
「……カイさんには負けますって」
なんとか平常を装って返した俺に、カイさんが「そうかなー」と軽く指先を顎に添える。
"イケメン"の仕草、なのだが、いつものような演技ではなく自然と動いたように見える。
素、なのだろうか。
そう過った瞬間に、くっと締まる胸。
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