カワイイ俺のカワイイ自覚

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(……嘘、だろ) 苦しいのに、心地良い。 感情に味覚などあるわけがないのに、どこか甘く感じるのは脳が麻痺してしまったからだろうか。 "会えば、わかりますよ"。 時成の言葉が、強く木霊する。 「……ユウちゃってさ」 「は、ハイっ!?」 問いかけにビクリと跳ねた肩。 しまった。不自然過ぎたと後悔するも、カイさんは興味津々っといった様子で純粋な瞳を向ける。 「そういう、フリルが沢山ついた服が好きなの? シンプルな時もあるけど、最初に会った時もそんな感じだったよね?」 「あ、ああ……。好みって言ったら好みですけど、女子大生みたいな服装も多いですよ。まぁ、アキバに来る時はフリル系の方が馴染むんで、こーゆー格好が殆どですけど。偶には普通の格好もしますし」 「普通?」 「男の服です」 「あ、そっか。持ってるんだね」 「そりゃ、さすがに四六時中この格好は出来ませんから……」 (なんだ今の"あ、そうか"って……っ!?) もしかしてカイさん、すっかり俺が男だって忘れてんじゃないだろうな!? なんだか一気に落とされた気分だが、感慨深そうに「そっか」と頷くカイさんはそんな俺のジェットコースターなど知る由もない。 とはいえ、結果的に余計な詮索もされずに済んだと自身に言い聞かせて、はむりと一口。 糖分に絆されたのか、ドクンドクンと強く打ち続ける心臓が、少しだけ大人しくなる。 それにしても。 カイさんはどうして急に、服装など気になったのだろう。 見ればカイさんは細身のジーンズに鎖骨の見える薄手のニットと、実にシンプルかつジェンダーレスな服装だ。 レンズの入っていない眼鏡は、客対策と薄化粧隠しといった所だろう。 本気で素性を隠したいのならプラスでマスクも必要だろうと思うが、先日の拓さんの堂々たる態度から推測するに、そこまで過敏に周囲を警戒してはいないようだ。 そう。例えば、俺のように。
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