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もどかしい。初めて陥る感覚。
「……この後、何かあるんですか?」
何か会話を繋がなくては。
そういえば列を抜けていたなと思い出して、もうすぐ食べ終わりそうなカイさんに尋ねる。
「うん、シフトがね」
「あ、時間、大丈夫でした?」
「平気。あのまま並んでても間に合わなそうだったから、また後日にしようと思って諦めたんだ。でも、もうシュークリーム! って気分だったから、コンビニで買って店で食べようと思ってたんだよね」
少し恥じるような笑みを浮かべるカイさんに、キュンと胸が鳴る。
勘弁してくれ。
胸中で嘆息しながら「そうだったんですね」といかにもぶって頷き、あのタイミングで捕まえられたのは本当にラッキーだったんだと冷静な部分で思う。
「ごちそうさまでした」。綺麗に平らげたカイさんは残った口拭きを小さく折りたたみ、キャメル色の鞄の中へ。
「ゴミ、もらいますよ?」
「大丈夫。店にゴミ箱あるから。ユウちゃんのも捨てておこうか?」
「いえ、箱があるんで」
「そう?」と。お願いだから今の俺に小首を傾げるのはやめて欲しい。
口拭きを箱に戻すフリをしてそっと視線を外し、コントロール不能に陥った心臓に落ち着けと念じるのは、一体何回目か。
「さて、そろそろ行かないと」
腕時計を確認するカイさんに、もうかと落胆する。
俺もスマフォで時刻を確認すると、時成に救援を頼んだ時から既に四十分程が経っている。
驚いた。
カイさんを追いかけて、あの店からこの場に落ち着くまでは十分程度といった所だろう。
つまりエスコートひとコマ分を過ごしたのしたのだと知り、あっと言う間過ぎる体感にマジかよと目を見張る。
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