カワイイ俺のカワイイ自覚

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「いくらだっけ?」 いつの間にかパステルブルーの長財布を開いていたカイさんが、「これで足りるかな」と五百円玉を取りだす。 シュークリームに缶飲料を足して十分お釣りが出る金額だが、勿論、ここであっさり受け取るなんてヘマはしない。 「いいですよ」と首を振ると、「そうはいかないよ」とカイさんが眉をしかめる。 「言ったじゃないですか、むしろ助かったって」 「だからいいです」、と純粋無垢な笑顔を向ける俺に、カイさんは「でも、」と納得いかなそうな顔をする。 例えば。 カイさんと俺の関係が"従業員と客"じゃなければ。 あるいは、こうして彼女の横で過ごす温かな時間を捨ててでも、カイさんに近づこうとする覚悟があったなら。 身体を寄せて不敵に笑んで、「なら連絡先教えて」とか、「じゃあまた今度、奢ってよ」とでも言えたのだろう。 けれども俺にはどちらも出来ない。 関係性は変えられないし、踏み込む度胸もないからだ。 「シュークリーム一個にカフェオレひとつでカイさんに"エスコート"してもらえたんです。安いモンですよ」 今考え得る一番の"当たり障りない"理由。 ついでに「他のカイさんファンに知られたら、怒られそうですね」と笑う俺に、カイさんの表情が一瞬曇る。 え? と。 違和感に疑問を抱いた瞬きのうちに、「そんな事ないよ」といつもの顔でカイさんが微笑む。 「じゃあ、本当ありがとう」 立ち上がるカイさんに合わせ、俺も立ち上がる。 何だったのだろう。 単に、見間違いだったのかもしれない。 「お仕事頑張ってください」 「うん。ユウちゃんも、気をつけて」 背を向けたカイさんが歩き出すのを見送りながら、いつもと逆だな、と頭の隅で思う。
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