カワイイ俺のカワイイ自覚

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遠ざかっていく存在は何だか心寂しい。 そんな自身に"乙女か!"と胸中でツッコミを入れていると、カイさんが首だけで肩越しに振り返る。 「月曜日、待ってるね」 「っ」 驚愕に目を丸くする俺に、カイさんは満足気にクスリと笑む。 それからバイバイ、と言うように指先で手を振ると、再び先の道へ消えていく。 (チェック、してたのか) 月曜日。それは俺が予約入れている日だ。 やっとの事で予約をもぎ取った俺が覚えているのなら分かる。 けれどもカイさんは今日も含め、土日の予約だってぎっしり埋まっていた。 その中で、ワザワザ。 数日後の俺の予約を覚えているのは。 (たまたま、だ。そう、たまたま見て、覚えてただけだろ) 理性では分かっているのに、どこか"特別"を期待する心臓がバクリバクリと胸を叩く。 --特別。 そう、そうだ。もう、誤魔化せない。 俺はカイさんの、"特別"が欲しい。 「……くそっ」 すっかりカイさんの姿は見えない。 片手で額を覆って、ドサリとベンチに崩れ込む。 恋愛経験は豊富ではない。 むしろ乏しい方だと自覚している。 だからこそ"絶対"とは言えないが、初めて尽くしのこの感情は恐らく"恋"と呼ぶものなのだろう。 (なんで、また) 俺がカイさんに近づく理由は、その人脈と技術を"利用"する為だ。 単純に、その隣を望んでいた訳じゃない。 それが。 こうして感情が先立ってしまっては、本来の目的達成に"悪影響"を及ぼす。それも"恋情"だなんて。 一番厄介で、一番、抱いてはいけない"情"だ。 (バカ野郎) ギリッ、と奥歯を噛む。覆った目元は日差しが遮断され、夜のような黒が広がる。 その、中。浮かぶのはカイさんの残していった、嬉しそうなかお。
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