カワイイ俺のカワイイ自覚

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かすような、見守るような。 見当もつかない意図を含む視線に耐え切れなくなったのは、当然、俺の方だ。 「ああ、そうだよ」 煮えきった鍋から湯が溢れるのは一瞬。 押さえつけていた熱が、身体中に巡っていく。 「俺は、カイさんが、好きだ……っ!」 半ばヤケで吐き出した感情は、ドラマで見るような甘い雰囲気など微塵もない。 荒々しくて、不格好。神経の全てを支配する例えがたい感覚の吐露に、時成はほっとしたように目元を緩める。 「それを、捨てられますか」 「っ、」 紡ぐ声は静かだ。 「先輩が、俊さんのコトを大事に思っているのは良くわかっています。けど、それは俊さんも一緒です。先輩が自分の感情を投げ捨てて目的を達成しても、俊さんは絶対に、喜びません」 「っ、それは……俊哉には、言わなければ」 「気づかないと思いますか? 確かに、俊さんは少し抜けたトコロがありますけど、先輩の"変化"を見逃すような人じゃないです。ましてや、"無理をして隠す"なんて。そういった類には、むしろ、誰よりも敏感なんじゃないですか?」 言われて、そうだったと思い出す。 「そんなコトも気づかないのか」と嘆息するのはいつだって俺だったが、俺が迷った時や本当に弱った時、いつだって俊哉がいち早く気づいた。 俺から話すまで理由は問わず、ただ、いつもと同じ少し情けない笑顔で、とりとめもない会話を紡ぎながらじっと隣に位置していた。 体格に似つかわない、虫一匹殺せないような俊哉。 温和な彼が激昂する姿は、めったに見る事はない。 そして記憶にある内の八割は、"無茶"した俺への叱咤だ。 普段、怒らないヤツ程キレると怖い。俊哉の場合は怖いというか、ねちっこい。 正座させた俺に正論を小一時間叩きつけて、「反省するまで絶交だから!」と口もきかない目も合わせない。
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