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喧嘩の仕方が舌っ足らずの幼少期から変わっていないのだ。
無視する俊哉にひらすら謝り続けて、"もう勘弁してくれ"と俺が心から音を上げるタイミングで、見計らったかのように許される。
大体、期限付きの絶交って何だと言ってやりたいが、そうなれば更に面倒な事になりそうで、言えないままでいる。
その、俊哉だ。
俺がカイさんへの気持ちに蓋をして接触を続けた時点で、核心までは辿り着かなくとも俺の変化には気付くだろう。
そしてきっと今回は、自身をないがしろにした俺への叱咤では済まない。
"きっかけを作ったのは自分"だ、と。
俊哉自身を責め続けるだろう。
下手すれば一生、許さずに。
「……」
想像して、そんな簡単な事すら忘れていた自身に、嫌気がさす。
結局、全て俺が悪い。
何が何でも、少なくとも目的の達成までは、"好き"になんてなってはいけなかった。
けれど、もう遅い。
時成の言う通り、自覚してしまった今、無かったことには出来ない。
とはいえ俊哉を傷付ける訳にも、由実ちゃんを悲しませる事もしたくない。
「……俺は、どうしたらいい」
グルグル回る思考の渦に酔いそうだ。
弱々しく零した俺に、時成がニヤリと笑む。
「何言ってるんですか、先輩。簡単じゃないですか」
腕を組んで不敵に見下ろす時成に、嫌な予感。
「オとしたらいいんですよ、カイさんを。"オトモダチ"じゃなくて、"コイビト"になっちゃえばいいだけです」
「なっ!?」
「"コイビト"になってしまえば先輩も幸せ、俊さんも安心。由実ちゃんも予約なんて気にせず会えて皆がハッピーですー」
名案だ、とでも言うように両手を上げてみせた時成に、開いた口が塞がらない。
何を言っているんだ、と思う一方で、確かにそれしか道がないと納得する自身もいる。
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