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頭の中で戦う小さな俺。その片方を、時成が援護する。
「こんなにカワイイ"オトコの娘"なんだ。楽勝だろ」
「っ」
「ユウちゃん先輩が初めてカイさんの話しを聞いたときに言ってた言葉ですー」
「あれは、"オトモダチ"って話しで」
「そんでユウちゃん先輩のモットーは? はい、先輩どうぞ」
「……やるからには完璧に」
「ピンポーン! せーかいですー」
渋々答えた俺に、時成が褒めるように手を叩く。
ああ、そうかよ。負けだ、もう、負け負け。
進むも泥沼、進まずとも茨の檻。
"戻る"なんて選択肢はないし、勿論、"立ち止まる"も論外だ。
かと言ってただがむしゃらに飛び込むのでは単なる阿呆。
ならば、不格好に紬いだ花の船で何処まで渡れるか、試してみようじゃないか。
「……ありがとな、時成」
素直に告げた礼。
時成と出会う前の俺なら、きっとこのまま一人で悩んで、変化を押し込んで、気付かないうちに沢山をバラバラにしていただろう。
取り返しの付かない事をした、と。後悔を背負うのは全てのピースが手の内から零れ落ちた後で。
空虚を掴む掌では、もう、拾い上げる事も出来ない。
(相変わらず、だな)
いつだって冷静に先を見据えていたいと思うのに、"感情"が占めると混乱するのは悪い性質だ。
それを知っていながらも未だに改善出来ずにいるのは、自身の未熟さ五割、恵まれた環境五割といった所だと思っている。
俊哉に、時成。頼り、頼らせてくれる人間が側にいるという、安心感。
まぁ、その安心感を理由にしている時点で、俺自身の"甘え"十割なのだが。
「……ちょっ、先輩さっきのもう一回おねがいしますー!」
急に慌てたようにスマフォを取り出す時成。
「は?」
何の事だと首を傾げると、起動したカメラのレンズを向けながら必死の顔で言う。
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