カワイイ俺のカワイイ調査

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(なにそれ、かっこいい) 俺の言語中枢は一体どうしてしまったのか。 片言で紡いだ興奮を悟られないよう手にした財布だけを見つめて、「いい、え」と絞り出しながらいつものエスコート代を払う。 顔は赤くなっていないだろうか。 腕を組んで待つカイさんに首をすくめてレジを叩く拓さんがいじってくる様子もないので、大丈夫だと思いたい。 「ユウちゃんを独り占めするなんてズルいぞ、カイ」 機器から出てきたレシートを破りながら、拓さんがジト目でカイさんを見上げる。 「ズルいも何も。以前から言ってますが、ユウちゃんはオレのお客様です」 問答無用。 バサリと切り捨てたカイさんは拓さんの手からレシートをスルリと抜き取ると、「あっ、ちょっと!」と声を上げる拓さんを一瞥して「行こうか」とオレに笑む。 普段は温和なカイさんだが、拓さんが絡むとやや強引になる傾向があるらしい。 口先を尖らせながら、「えーもうちょっとゆっくりしてけばいいのにー」と久しぶりに帰省した息子を引き止める母親のような台詞を呟く拓さんも、最早まるっと無視だ。 こうなったら一介の客である俺に口を挟む余地はないだろう。扉を開けたカイさんに駆け寄り、「じゃあ、また」と拓さんに会釈する。 「またね、ユウちゃん。いい夢を」 直前までどんなにふざけていても、決める所はキッチリ決める。 コツ、と靴を鳴らして胸元に手を添え、頭を下げる拓さんの背はしっかりと伸びていた。 「本当、ゴメンねユウちゃん。毎回毎回手間取らせて……」 階段を下りながらすまなそうに言うカイさんは、インディゴのジーンズにグレーのカットソー、仕上げにネイビーのロングカーディガンをサラリと羽織っている。 店内で注目の的だった前回の反省を踏まえ、"私服"欄にチェックを入れておいたのだ。
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