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そんな事をツラツラと考えながら差し出されたレシートを受け取り、「いいえ」と首を振る。
「楽しいですよ、拓さんと話すの」
「そう? ユウちゃんが望めば、今度からオレが受付に立つよ?」
俺に目線を合わせるように、覗きこむカイさん。
「っ」
息を呑んだのは、その眼の強さだけではない。
(かお、ちかい……っ!)
反射で仰け反りそうになった身体をぐっと堪えられたのは、連日の度重なるシミュレーションの賜物だ。
こうした距離感だって、今まで自然と何度もあった。
突然距離をとるようになっては不自然がられるだろうと、事前に"予習"してきたのである。
よく耐えた、俺。
自身に盛大な拍手を送りつつ、表情は平時をキープ。
拓さんに言っていた言葉は脅しじゃなく本気だったんだ。
先程のカイさんの言葉を思い出す事で気を逸らしながら、「大丈夫ですよ」と微笑む。
拓さんが何を考えているのか未だに推し量りきれないが、それでも先程告げた通り、言葉を交わす事自体は楽しい。
それに、店の扉を開けて即カイさんと対面というのも。
少し前の俺ならなんとも無かっただろうが、恋心を自覚してしまった今の俺には少々刺激が強い。
"ヘタレ"と言われたら否定できないのが悲しいかな、気持ちを落ち着けるまでのワンクッションに、拓さんの軽さは実に丁度いいのだ。
「あの先に居るんだな、って思って待つのも結構好きですし。それに、真打ちは後から登場するモノですよ」
それらしく告げた俺に「ユウちゃんがいいなら、いいけど……」とカイさんが押し黙る。
だが納得はしていないのだろう。
眉間に刻まれた縦皺が、その内心をありありと反映している。
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