カワイイ俺のカワイイ調査

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「さ、行きましょう」 先を促すように指さした俺に、カイさんが「うん、そうだね」と頷く。 今回は"エスコート先のご要望"欄に、いつもの店に行きたいと事前に記入しておいたのだ。 我ながら代わり映えのないチョイスだと思うが、それでもあの空間にいるカイさんは一番伸び伸びしているように見える。 それは"カイ"としても"彼女"としても。 接客をしてくれるのが友人である吉野さんだという事も、要因の一つなのかもしれない。 「ああ、そういえば」 歩きながら思い出したようにカイさんが言う。 「次ユウちゃんと会う時に、是非ウチに寄ってくれって里織に言われててね。だから、丁度良かったよ」 「何かあったんですか?」 「うーん、そこまでは教えてくれなくて」 「変な事ではないと思うんだけど……」と思案するように顎先に指を添え、空虚を見つめるカイさんも青空に映えて実に絵になる。 って、見とれてる場合じゃないだろーが! と自身に喝を入れつつ、「そうですか……」と神妙な顔をつくる。 (本当に俺、演技派で良かった……) 実は俳優(女優?)とか向いてるんじゃないか? などと戯れ言に意識を逸らしながらも、今回の目的は忘れない。 そう。"カイさんとオトモダチになろうプロジェクト"改め、"カイさんをオトそうプロジェクト"の第一段階として、今日の目的はカイさんの恋愛対象を探る事だ。 以前の吉野さんの口ぶりからするに、カイさんが現在お付き合いなるものをしている人物はいないとほぼ断言できる。 ならばその座を狙えばいいのだが、"性別"という概念にとらわれないこの界隈では安直に"彼氏になろう!"と意気込んではいけない。 まずは相手の恋愛対象を知らなければ、始まるものも始まらないと時成に教授されたのである。 仮に対象から外れていても、そこで引き下がるのかダメ元でアタックしてみるのかは本人次第ですーとしっかり注意事項を添えられて。
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