カワイイ俺のカワイイ調査

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流れる沈黙。 近くの公園から帰る途中なのか、数人の幼い少年達の声がうっすらと部屋に届く。 俺も、あのくらいの歳の頃はまだ"考える"事も少なく、ただ興味のままに駆け回っていた記憶がある。 あの頃のままでいれたなら、しがらみもなく、好きなモノは好きだと声高らかに胸を張れただろうに。 どうしようもないやるせなさに、薄く息を吐き出す。 過ぎた過去に後悔はない。 だがこんな風に、ましてや恋愛事で、過去を羨む日が来るとは。 未だ興奮の余韻を感じさせる甲高い声達が遠ざかると、部屋には再び静寂が訪れる。 日暮れ時のこの街は、静かだ。 「……なぁ、俊哉」 折り曲げた膝を抱え、片手でグラスを弄びながらポツリと呟いた俺に、俊哉は静かな声で「うん」とだけ言う。 いつだってそうだ。 俊哉は俺から切り出すのを、ただ、静かに待ってくれる。 「……俺、さ。お前に謝んないといけなくて」 「……どうして?」 「カイさん、のコト。……好きになった」 驚愕に息を詰める気配。 言葉を探す俊哉を目端に捉えながらグラスを目の前の机に乗せ、正座をする。 「だから、カイさんと……"オトモダチ"にはなれない。由実ちゃんからも、頼まれてたのに……悪い」 頭を下げた俺に伸し掛かる沈黙の重圧。 裏切ったと、思われても仕方ない。 由実ちゃんにどう説明したらいいんだと、詰め寄られても構わない。 突然の事態に脳の処理が追いつかないののだろう俊哉の言葉が発せられるまで、ひたすら黄金色の床だけを見つめ続ける。 俊哉は絶対に「嘘だ」とは言わない。 俺がこういう"嘘"はつかないと、知っているからだ。 「……そっか」 静寂の中に届いた声は、柔らかく穏やか。 「謝る必要なんてないよ、悠真。俺に頭を下げるなんて、らしくないって」 戸惑いがちに薄く笑う気配に、そっと顔を上げる。
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