カワイイ俺のカワイイ調査

13/32
前へ
/238ページ
次へ
確かにいつもより髪のセットが崩れているといったらそうだが、それはそれでカジュアル感があり近所の優しいお兄さんといった風である。 (イケメンはズルいな……いや女性だけど) 複雑な心境で見守る中でカイさんは手にしたカーディガンの上部を折り曲げると、「ちょっとじっとしててね」と俺へ一歩を詰める。 「へ?」 両の腕に閉じ込めるように、ふわりと回された腕。 爽やかなシトラスの香りが微かに鼻を過る。 腰へ柔らかい布が巻きつけられる感覚がするが、それよりも、伏せられた瞼を縁取る睫毛の近さに身体中の神経という神経が騒立つ。 「っ!!?」 「ハイ、出来た。これで少しは守れるかな?」 半歩下がり、仕上がりを確認して「うん。それなら捲れないね」と満足そうに微笑むカイさんとは対照的に、動揺の許容範囲を軽く飛び越えた俺からは「あ」とか「う」といった意味を成さない音しか出てこない。 言葉が上手く紡げないまま、ハクハクと唇だけを開閉する俺にカイさんは小さく吹き出すと、口元に片手を添えてクスクスと楽しそうに笑いながら「行こうか」と再び踏み出す。 「あっ……そんな、大丈夫です……っ!」 やっとの事で出てきた言葉。 駆け寄りながらも腰元で結われたカーディガンの両腕を解こうとすると、すかさず肩越しに振り返ったカイさんに「駄目だよ」と静止される。 「オレがイイって言うまで、外しちゃ駄目」 「でも、腕とか、伸びちゃいますし……っ!」 必死で言い募るも、 「ユウちゃんの脚が晒されるより、全然マシ。それに、ユウちゃん細いから。そんな心配しなくて平気だよ」 「っ、そーゆー問題じゃ」 「ともかく」 少し強めの声。 「お願いだから、そのままでいてよ。じゃないと色々、落ち着かなくて」 「ね?」と首を傾げるお得意の一撃を加えられては、もう反撃のしようがない。 渋々頷き、結び目から手を放すとカイさんは柔らかく目元を緩め、歩き出す。
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!

145人が本棚に入れています
本棚に追加