カワイイ俺のカワイイ調査

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どうしてこんなにも、良くしてくれるのだろう。 ついうっかり、"特別"なんじゃないかと錯覚してしまうくらい、カイさんの優しさは"徹底"されている。 きっと、俺の知らない他の"客"にも同じことをしているだろうに、そう納得しようとした途端、胸中に灰色の暗雲が立ち込める。 "優しさは時に毒となる"とは、こういうことか。 続く灰色のアスファルトが、まるで、この先を恋路を映しているようだ。 「はい、ユウちゃんどうぞ」 カランと高く響いた音にはっと顔を上げる。 ぼんやりとしている間に、店に着いていたようだ。 「あ、ありがとうございます」 いつもと変わらず笑顔で扉を開け放ってくれているカイさんの前を会釈して通り、店内へと踏み入れる。 今日は平日という事もあり、人数が少なく穏やかだ。 気の抜けたようにほっと零れた息は、無意識。 「あーユウちゃんっ! 待ってたのよー!」 「吉野さ、んん!?」 駆け寄ってきた吉野さんがガバリと俺を抱きしめる。 突然異性に抱きつかれれば、そりゃ声だって上ずるだろう。 回された腕に硬直したままでいると、吉野さんの身体がグッと引き剥がされる。 カイさんだ。 「ちょっと、里織……」 「あら、友好のハグは欧米では挨拶よ。さ、こっちこっち!」 今日の吉野さんはいつになくハツラツとしている。 空いていた俺の左手をグイグイと引き、もはや定位置となっている窓側の席まで案内すると、「今お冷持ってくるから~」と上機嫌で去って行く。 相変わらず元気な人だ。 それどもその明るさのお陰で、心が軽くなった感覚がする。
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