カワイイ俺のカワイイ調査

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「……ユウちゃん」 「あっ」 ポソリと名前を呼ばれ、苦笑を浮かべたカイさんの差し出す右手に気づく。 鞄を渡すの、忘れてた。 慌てて「スミマセン」と断りを入れて渡し、座ろうとして、止まる。 「あの、これ……」 このまま座っては皺になってしまう。それに、店内では風の心配もないし、外し時は今だろう。 腰の結び目を指し示した俺に、カイさんは「ああ、」と零し、次いでニコリと笑みを向ける。 「まだ、駄目。そのまま座っていいから」 「え!? でも、汚しちゃうかもですし」 「その時はそーゆー運命だったってコトだね。ほら、いつまでも立ってると目立つよ」 引いた椅子に腰掛けて、優雅に足を組むカイさんは微笑みながらも迫力がある。 不機嫌は明らか。 これ以上押し問答を続けた所で無駄だろうと、出来るだけ皺をつくらないよう手で生地を広げ、そっと腰掛ける。 怒って、いるのだろうか。 尋ねようようと口を開くも、グラスとお手拭きを二つずつ乗せたトレーを手にこちらへ向かってくる吉野さんの姿が見え、閉じる。 「はい、どうぞ」 順に置かれたグラスが木製の机をコツ、コツ、と鳴らす。 「あの、吉野さん。何かあったんですか? 僕に来て欲しいって言ってくださってたって、カイさんに聞きました」 俺に何の用だ。 それを出来る限り丁寧に尋ねた俺に、吉野さんが「そうそう、それねー」とニンマリと笑む。 「ユウちゃんにちょっとお願いがあって」 「お願い、ですか?」 内緒話だというように、口横に手を立てて声をひそめる吉野さん。
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