カワイイ俺のカワイイ調査

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鼻歌でも歌いだしそうな軽やかな足取りで、吉野さんはカウンター横のカーテンをくぐって行く。 その後姿を見送って、実質タダとなった飲食代に、本当ラッキーだなとお冷をひとくち飲む。 鼻を抜ける爽やかなレモンの香り。 強風に煽られ疲弊した身体に、すっと馴染んでいく。 「新作かー……なんでしょうね? ワッフルやパフェはもうあるし、それに続くカフェメニューかぁ。やっぱ、デザート系ですかね?」 話を振るも、カイさんは「さぁ……どうだろね」と反応がイマイチ悪い。 どうやら未だご機嫌ナナメのようだ。 これじゃ、訊き出す以前の話だなとグラスを置く。 「カーイさん」 前のめりで机に肘を付き、両手の間に頬を乗せる。 自然と上目遣いになるのは勿論計算づくで、こうしてカイさん相手に"意図的"をやるのは久しい。 「なんか、怒ってます?」 コテリと首を傾げるという"いかにも"な仕草。 カイさんは一瞬目を見張ったが、直ぐにふ、と表情を緩める。 「ユウちゃんそう言われるのは、二回目だね」 そうだっただろうか。 逡巡していると、俺を真似てカイさんが机に左肘をつく。 詰まる距離。 それでも退くこと無くそのままの体制を維持し続けると、カイさんは片目を細めて弱々しく笑う。 「……拓さんから奪還したと思ったら、今度は里織が懐いてるし。いつまでこうしてられるのかなって、不安にだってなるよ」 言葉に茶化したような含みがあるのは、俺の"ワザと"に合わせているからだろう。 けれども滲む自嘲に、つい、悪戯心が顔を覗かせる。
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