カワイイ俺のカワイイ調査

19/32
前へ
/238ページ
次へ
吉野さんの明るい声に、ビクリと顔を跳ね上げる。 すっかり熱に浮かされて、吉野さんが向かってくる気配に一切気が付かなかった。 不自然に切られた俺の言葉を気にしてか、額に手を当て「里織……」と深い溜息をついたカイさんに、吉野さんが「あら? なになに? お邪魔だったかしら」と言いながら紅茶とコーヒーを順に置く。 真ん中には大きめのミルクピッチャー。 それを少し窓側へ寄せて、吉野さんは「フッフッフ」と幼児向けアニメの悪役のように笑む。 「寄ってらっしゃい見てらっしゃい」 「いや、もう座ってるから……」 「なによ、雰囲気作りじゃない。さぁユウちゃんお待ちかね、こちらが当店の新メニューよ!」 「ババーン!」という効果音付きで、中央に白いプレートが置かれる。 卵色をした楕円形の大きいバケットがみっつ。 扇状に並べられたそれらの表面はこんがりと香ばしく焼かれ、粉雪のように散らされた白糖に加え、黄金色のメープルシロップが艶やかに滴っている。 右端にはブルーベリーにラズベリー、細かくカットされたイチゴが色鮮やかに盛られ、ちょこんと乗せられたミントの緑が品の良さを漂わせる。 「フレンチトーストだ……っ!」 なるほど確かに、フレンチトーストも今やカフェメニューの看板になるほどメジャーな代物だ。 甘い香りに腹の虫がそわつくのを感じながら、微かな違和感にプレートを見つめ続ける。 (なんだ?) 二度ほど視線を彷徨わせて、そして目にした陶器に合点がいき吉野さんを見上げる。 「バター、別添えなんですね」 「お、鋭いわね」 そう、フレンチトーストといえばバターが既に乗せられているモノが多い。 だがこのプレートでは、カラメル色の陶器の中に四角くカットされたバターが二枚ほど鎮座している。
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!

145人が本棚に入れています
本棚に追加