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それから自分でもわからないというように戸惑った表情をするので、俺は特に追求するでもなく自分用の皿に取り分ける。
盛り付けが完了し、見ればカイさんはまだボンヤリとフレンチトーストを見つめ続けている。
何か、特別な思い入れでもあるのだろうか。
引っ掛かりを覚えながらもシルバーをもうひとセット取り出し、「カイさん」と声をかける。
「どうぞ」
「あっ、ゴメンね」
「いーえ。じゃあ、いただきます」
両手を合わせながら軽く頭を下げ、置いていたシルバーを再度手にし、トーストへとナイフを入れる。
耳の部分はカリッとした感触。
スッと引けばしっかり卵液を含んだ生地は柔らかくナイフを通す。
切れ目に流れこむメープル。熱にジワリと溶け出したバターをナイフで少しだけ乗せ、口に運ぶ。
生地はふわりととろけるように軽く、メープルと混ざり合ったバターの塩気が甘さにアクセントを加える。
すかさずベリーをフォークでさして口に放り込めば、広がる酸味がメープルの甘さを拭い去っていく。
「おいしい」
呟けば、同じく口にしていたカイさんが「うん、美味しいね」と頷く。
その顔には先程のような憂いはなく、すっかりフレンチトーストに心奪われているようだ。
良かった。
安堵しながら使われていないミルクピッチャーをそっとカイの前に置き直せば、照れるような、拗ねるような表情を向けた後、無言のままコーヒーへと傾ける。
「……ふっ」
その様子が可笑しくて、思わず吹き出した俺にカイさんはスプーンでコーヒーをかき混ぜながら、「……ユウちゃん」と咎めるように言う。
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