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「スミマセン」
「……いいけど」
「拗ねないでください」
「拗ねてないよ」
こうした何気ないやり取りがとてつもなく好きだ。
ふふっと笑う俺に、カイさんはコホン、と態とらしく咳払いをする。
「そういえば。ユウちゃん、仲の良い女の子とよくお茶しにいくの?」
「……へ?」
空想していたシチュエーションに近い台詞に、素っ頓狂な声が出る。
(ななななんだ急に!?)
まさか、カイさんも……っ!?
「さっきの。ネイルのコトとか、随分と具体的だったし。オレの知る限りではユウちゃんってネイルしてたコトないから、なら女の子とお茶でもしてた時に、そういう事があったのかなって」
(ですよねー)
純粋な疑問だと語る瞳に、湧きでた期待を取り消す。
そして逆に窮地に立たされたと知り、必死で脳をフル回転させる。
ネイルの件は主にレナさんのお陰だが、当然、言えば自身の首を絞めるだけである。
さて、なんて返そうか。
その一、「飲食店でのアルバイトの経験があって」。踏み込まれてボロが出る可能性があるからバツ。
その二、「あーそうなんですよー。よくアチコチ引っ張って行かれて……」。まるで特定の子がいるみたいじゃないか? バツ。
その三、「友人の妹が結構凝っていてー……」。高校生ってネイルしていいんだっけか?
みっつのバツを並べるまでかかったのはほんの一秒足らず。
「ああー」と曖昧な笑みを向け、引っ張りだしたのは"そのよん"だ。
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