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「学校の食堂とか講義前とか、よく女子グループの子達が見せ合ってるんですよ。僕はネイルをしないので、あまりわかりませんけど、変える度に見せ合う"儀式"が必要みたいですね」
「綺麗にしたから、見て欲しんだよ。新しい服を買った時みたいに」
「ああー……それならわかります。……カイさんってネイルとかやるんですか?」
「え?」
カイさんの瞳が揺らぎ、それからクスリと笑う。
「基本的にはやらないね。やってた事はあるけど単色塗りだし、見せ合うようなモノではないかな」
「なら、カイさんのお客さんってネイルしてる方多いんです?」
「どうして?」
「だって、さっきの言い方は"みてみて"って言われた事あるパターンですもん」
「……妬いてるの?」
「そうですね、カイさんの回答次第では拗ねるかもしれません」
互いに冗談だと承知の、軽い掛け合い。
「それは困るけど、ユウちゃん相手だと見抜かれちゃうしな」と笑うカイさんは愉しそうだ。
「正確にはわからないけど、半分いかないくらいかな」
「結構多いですね。皆さん見せてきます?」
「うーん、全員が全員ってワケではないかな。拘りは人それぞれだけど、自分から見せてくれる子達は皆楽しそうだし、そう思うとその"儀式"もカワイイと思うよ」
「っ」
その子達を思い出しているのか、慈しむように目元を緩めるカイさんに、喉がヒュッと鳴る。
頭に渦巻く予感。"カワイイ"と思うのは、"儀式"に至る心情を指しているだけなのだろうか。
口にされた"カワイイ"は、子猫を愛でるような感情ではなく、特別な愛おしさを覚えるモノではないのか。
つまりそれは、"恋"の対象となるのが――。
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