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「ユウちゃん?」
「あ、そう、ですか。僕ももし機会があったら、やってみたいです」
咄嗟に取り繕うも、ぎこちなかったのだろう。
カイさんは不思議そうな顔をしながらも気を使ってくれたのか、「じゃあ、その時は見せてね」と優しく笑んで再びトーストを口に運ぶ。
カチャリ、カチャリ。皿を鳴らすシルバーの音が、灰色の靄が渦巻く脳内にガンガンと響く。
終了時刻を告げる連絡が入ったのは、それから十分も経たない内だったように思う。
その間、取り留めのない会話をいくつかした気がするが、どれも内容は覚えていない。
「今日は二人の時間が少なくてごめんね」
通話から戻ってきたカイさんが、すまなそうに言う。
「いえ、満足です。って言ったら、またカイさんに怒られちゃいますね」
「そうだね。"もっと一緒にいたい"って言ってくれる方が嬉しいけど、でもユウちゃんはそーゆー事言わないって、わかってるから、いいよ」
流石、よくわかってらっしゃる。
クスクスと笑うカイさんは寂しそうというより、仕方なさそうだ。
「でも、次はもう少し改善するようにお願いしておくよ。拓さんにも、里織にも」
肩を竦めたカイさんに、俺は苦笑を返す。
「さて」仕切り直したカイさんは「どうする?」とお伺いを立ててくる。
尋ねられているのは延長の有無ではない。カイさんの予約は常に満タンである。
理由は俺の皿に乗せられた食べかけのフレンチトースト。
残っていた二枚目はユウちゃんに、と譲らないカイさんにありがたく頂戴したのだが、やはり時間が足りなくまだ半分ほど残っている。
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