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「僕はもう少しお茶していきます。ここで終わりでも大丈夫ですか?」
「うん、平気。見送れなくてごめんね」
「いえ、僕の我儘なんで。あ、次のお客さんってここ使ったりしないんですか?」
客同士が鉢合わせたらマズイだろう。
大丈夫なのだろうかと訊いた俺に、カイさんはニッコリと笑む。
「うん。ここはユウちゃんのお気に入りだからね」
「そ、れは……」
客に合わせて、連れて行く店を変えていると言うのだろうか。
「……なかなか"やり手"ですね」
一体いくつ"お気に入り"があるのかと呆れた俺に、カイさんは「誤解だよ」と立ち上がる。
面白くて堪らない。
そういうように片手で口元を隠して笑うもんだから、俺はむぅ、と膨れてみせる。
「あーもーほらほら。そんな顔しないで、ちゃんと見送って」
「……わかりました。上手く誤魔化されてあげますよ」
「誤魔化しではないんだけどな」
「はいはい、それでいいですから。いいかげん行かないと」
「そうだね。拓さんから電話かかってきそう」
苦笑して、「じゃあ、またね」と背を向けるカイさんを見送る為に立ち上がる。
と、脚にふわりとした感触。
なんだ? と視線を落とすと飛び込んできたネイビーの布。
そうだった。
「っ、カイさんストップっ」
小声ながらも切羽詰った静止に、カイさんが振り返る。
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