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「あたしもちょっと心配で訊いたコトがあるんだけど、どーも相手が本気っぽいって察知したら上手く躱してるみたいね。そうすると向こうも察知して、離れていくと」
想像して、つくんと心臓が痛む。
「……なら僕は」視線が下がってしまうのは、架空の"その子"に、自分を重ねているからだ。
「まだ、"本気"だとは思われていないんですね」
「……そうね。少なくとも、あの子の中でユウちゃんを"切る"って選択肢がないのは確かね」
カイさんの"特別"になりたい。
だが本気だと気づかれてしまったら、カイさんは離れていってしまう。
例え"客"として訪れてもカイさんの心は高い高い壁の向こう側で、壊すことも越えることも許されない強固な拒絶に、耐えられなくなるのは確実に俺の方だ。
「……それなら」
これは、カイさんへの恋心を自覚してから、腹の底で抱えていた疑念でもある。
告白をする、という事は、同時にこれまでの関係を終わらせるという事だ。
上手くいけば望んだ距離が、いや、それ以上が手に入る。
けれども、上手く行かなかったら?
きっともう、カイさんには会えなくなる。
ギュッと握りしめた掌。
「……今のままの方が、いいのかもしれません」
このままの距離を保ち続ければ、カイさんは俺の隠した感情には気づかずにいてくれるのだろう。
ちょっと変わってて、気張らずに対応できる"やりやすい"客。それでも十分なのではないか。
やっと手にしたこの距離を、笑顔を。
共に過ごせる僅かな時間さえ、失ってしまうくらいなら。
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