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距離があるとはいえ、ここには他のお客様もいる。
直接言葉にするのは何となく気が引けて核心部分を濁すも、吉野さんは意図に気づいてくれたようで「あ、はいはい」と手を打つ。
やっぱり、知っているのか。
姿勢を正し、真剣に見つめる俺に吉野さんはニコッと笑む。
膨らむ期待にゴクリと生唾を飲み込むと、吉野さんは周囲を伺うように後方をキョロリと見渡し、そっと声を落とす。
「そーゆー大事なコトは、本人にききなさい」
「っ、味方じゃなかったんですか」
「それとコレとは話しが別よー! しっかり苦労しなさい」
小脇に抱えていたお盆にカイさんの使用した皿やらカップやらを乗せ、吉野さんは口角を上げる。
ニヤニヤといった笑み。
俺に姉はいないが、コレは完全に"弟の恋路を見守る"それだ。
見守るというより楽しんでいるといった表情なのが腑に落ちないが、これ以上食い下がった所で教えてはくれないだろう。
「はーい」と唇を尖らせ不貞腐れる。
吉野さんがダメならば、やはり本人から探るしか道がない
。それも、好意には気付かれないように、なんて、一体どうしたらいいのか。
ハァ、と不安を吐き出して、冷め切った紅茶で喉を潤す。感情の起伏にすっかりカラカラだったのだ。
シルバーを手にして、同じくすっかり冷めているであろうトーストにナイフを通す。
吉野さんはお盆を片手に半分側の机を軽く拭くと、俺の苦悩を察してか、含み笑い混じりで「ごゆっくり」と告げて背を向ける。
が、何かを思い出したかのように「っていうか」と振り向くので、俺も手を止め吉野さんの言葉を待つ。
「ユウちゃんって、男の子だったのね」
……今更。
きょとりと言う吉野さんについ吹き出しながら、俺はニコリと微笑んで「そうですよ」と肩をすくめるのだった。
「どんなに可愛くても、僕は"男"です」
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