カワイイ俺のカワイイ危機感

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『恋は人を臆病にする』とはよく言ったもので、心を決めたはいいものの、大きな進展はないままカイさんとの会合の回数だけが増えていった。 時にからかい、からかわれながらの絶妙なバランスが、ほんの些細な一言で崩れてしまうのではないか。 そんな懸念に進めないままでいるくせに、時間の経過と共に膨らみ続ける感情が"早くしろ"と駄々をこね始めて、手を焼くようになってきた。 「はぁ……」 仕事中だというのに、大きく漏れ出る溜息。 自身の情けなさを悲観しただけではない。 人の疎らな店内で唯一盛り上がっている、目の前の"お客様方"に対する不満も多分に含まれている。 「あっれーユウちゃん、溜息なんてらしくないね? お疲れ気味?」 「ユウちゃん先輩がこんな程度が疲れる筈ありませんー。さしずめ、"悩み事"ってトコじゃないですかー?」 「え、それならこう、もっと悩ましげな感じが欲しいトコロなんだけど」 「"色気"ってヤツですかー? 確かに、先輩の得意技ですねー。やり直します?」 「……やり直しません」 そう、店内ホール席の角。 水の減ったグラスを順に注ぎ足していく俺を見上げるお客様は、拓さん、時成、俊哉の三人だ。 コーヒーブレイクの客も帰り始めた十七時過ぎ、「ユウちゃんいるかなーって思って、来ちゃった」と相変わらず語尾に星マークでも付きそうな調子で拓さんが現れ、先に上がった時成がその席に居座り、事前に呼びだされていたらしい俊哉が引っ張りこまれた形だ。
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