カワイイ俺のカワイイ危機感

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背にした茜空を反射して、濃いあかに染まるオレンジベージュの髪。 丁寧なカールをつけた睫毛が縁取る目元を細め、真っ赤な唇で綺麗に弧を描くひとりの女性。 「レナさん」 「久しぶりね、ユウちゃん。会いたかったわ」 前回の来店は十日ほど前だったか。 「暫く忙しくなるの」と残念そうに呟いたレナさんは言葉通り、その日以来、姿を見せなくなっていた。 「お仕事、落ち着いたんですか?」 「ええ、なんとか。早く時間を作りたくて、少し無茶してしまったけど」 「大丈夫ですか? やっと取れた時間なら、お家で寝てたほうが……」 「アラ、ユウちゃんはアタシが来て迷惑だった?」 「まさか。お会いできて嬉しいですよ」 「アタシもよ。寝ているよりも、こうしてユウちゃんに会った方が、力になるの」 案内した席に腰掛け、胸元を強調するように机に両腕を乗せたレナさんは「本当よ?」と俺を見上げる。 ああ、なんか大丈夫そうだな。 以前と変わらないレナさんに「そう言ってもらえると、嬉しいです」と笑顔で返す。 メニュー表を渡して一旦下がり、お冷とお絞りを持って再びレナさんの元へ向かう。 軽い談笑を交えつつ、受けたオーダーはパンケーキプレートとコーヒーだった。 「では、少々お待ち下さい」 「もう行っちゃうの?」 来れなかった間の分を取り戻そうとしているかのように、レナさんの話題は次から次へと溢れ出てくる。
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