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ニヤニヤと向けたられた視線に、顔に熱が登ってくる。
俺は"好きに処分して"と言われたあのカーディガンを、カイさんに返却したのだ。
勿論、きちんとクリーニングに出してから。
『ありがとうございました』
差し出した小袋にカイさんは首を傾げていたので、本当に返ってくるなど思ってもいなかったのだろう。
中身を確認して顔を跳ね上げたカイさんは、『そんな、良かったのに』と端正な顔に困惑を強く滲ませませていた。
『汚れはないと思いますけど、一度僕が使ってしまったモノなので……。後をどうするかは、カイさんにお任せします』
肩を竦めた俺に向けられたのは、どこか淋しげな薄い笑顔。
『……ユウちゃんは、優しいね』
『へ? いや、優しいのはカイさんですって。普通、大事な私服を客に渡したりしませんよ。特に"こういう"お仕事では』
どんな類にしろ、直前まで"好意"を寄せる相手が着用していた服なんて、あまり考えたくはないが、"良からぬ事"に使われる可能性だってある。
俺は断じてやましいことは一切していないが、気をつけないと、と渋い顔で忠告した俺に、カイさんは儚げな笑顔のまま「うん」と頷いた。
明確な何かがあった訳じゃない。
感じた違和感を言葉として認識する前に、俺は口を開いていた。
『……本気で、心配してるんですからね』
『ユウちゃん?』
『カイさんが嫌な目にあうの、絶対に嫌ですから』
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