カワイイ俺のカワイイ危機感

12/29
前へ
/238ページ
次へ
「……嬉しそうに、されてましたか」 気の抜けた声が出た。 拓さんは笑顔のまま、静かに首肯する。 よかった。本当に、安心した。 彼女を、傷つけた訳ではなかった。 限界まで張り詰めていた懺悔が、解けていく感覚。 「まったく、ユウちゃんにそんな顔させるなんて、カイも罪なヤツだねー」 「まだ勤務中なんですから、泣いたらダメですよセンパイー」 「ユウ、ちゃん、大丈夫? あ、ティッシュあるよ!」 「いらない。泣かないし」 眼の奥がじんとする。 確かにちょっと、危なかった。 感覚を逃すように目を閉じて、気を引き締めてから開く。 成長した親戚の子供を見るような温かな眼差しの拓さん。 呆れ顔の時成がスマホを握りしめているのは、あわよくば俺の泣き顔を収めようとしていたのだろう。 俊哉はいらないと言ったのに、ポケットティッシュを握りしめオロオロとしている。 (なんだかなぁー) 大抵の事は、一人で乗り越えられると思っていた。 それはこうして"装う"ようになってからの、"意地"でもあった。 仕草も、言動も、想像し得る"カワイイ"を磨いて、相手をいいように転がしていたのは、攻撃に見せかけた防御でもあった。 理解は求めない。だから、黙らせる。 手っ取り早い、力技。 なのに、気がついたら、こんなに。
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!

145人が本棚に入れています
本棚に追加