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「……センパイ、やっぱり泣いておきますかー?」
「泣かないって言ってるだろ」
フイと背中を向けて、パントリーへと向かう。
少し長居をしすぎた。
別に、あれ以上あの場にいたら、負けそうだったからじゃない。
(……歳かな)
平然を装いながら辿り着いたパントリーで、大きく深呼吸を一回。
破裂寸前の感傷がニュートラルに戻っていく。
客の少ない時間帯でよかった。
(ああ、なんか)
今ならカイさんを前に、勢いで「大好き」だと叫んでしまえそうだ。
後先など考えず、感情の赴くまま。
それだけ俺は満たされていた。
胸の奥の、ずっと奥から温かな感情が全身に巡って、柔らかなベールで包み込まれているような感覚がしている。
これを、"心強い"と言うのだろうか。
多分あの三人は、俺がカイさんにぶつかって砕けたら、やんややんやと集まって朝まで付き合ってくれるのだろう。
「次がある」「今は泣け」。
そう言ってグダグダと絡んでくる姿が目に浮かぶ。
時成はまだ未成年だった筈だから、酒はダメだ。
でもジュースでも、お茶でも、俊哉と時成は、きっと泣くに違いない。
(ってか、拓さんって来ても平気なのか……?)
今更か、と浮かんだ疑問を払拭する。
それにその時はもう、俺はあの店の"客"じゃない。
程なくして出てきたのはレナさんが注文したパンケーキだった。
必要なモノをお盆にのせ、すっかり取り戻した"ユウ"の顔でレナさんの元へと向かう。
ソファーの背もたれから顔だけを覗かせて様子を伺っていた時成が残念そうな顔をしたので、目だけで笑ってやれば慌てて顔を引っ込めた。
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