カワイイ俺のカワイイ危機感

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「大丈夫、ユウちゃんの沽券に関わるような悪い話しはなかったし」 「その一歩手前まではあったんですね」 「ちょっとした失敗談程度だって。オレの知るユウちゃんってそーいった隙がない感じだったから、何だか安心したよ」 「そのイメージを死守してた僕からしたら、いい迷惑なんですけどね」 「むしろ好感度上がったよ? 努力してる子って、カワイイし」 その"努力をしている"という事実が露呈すると困るんだ。 複雑に眉根を寄せた俺に、拓さんは肩を竦める。 「オレの"カワイイ"って言葉には、あっけらかんとしてるのにね」 「え?」 「同じ言葉でも、使う人間によって重みが変わってくるのって、何だか不思議だよね」 おそらく拓さんは、カイさんに対する態度との違いを言っているのだろう。 それにしては、からかうような雰囲気ではなく、少し寂しそうな笑みを浮かべるので俺はただ戸惑う。 「拓さん?」 「あーいやゴメンね、何でもないから」 拓さんはトレーに乗せたお釣りとレシート、仮会員カードと引き換えた会員カードを財布にしまい、ポケットに突っ込む。 「さて。ユウちゃん応援団の一員として、ちょっとしたお節介。これはあくまでオレの"勘"だから、ただの"思い過ごし"かもってのを前提として聞いてほしいんだけど」 「はい?」 「ユウちゃんが思っている以上に、ややこしいコトになっているかもしんない。出来るだけ"気をつける"よう、オススメしておくよ」 「へ?」 「じゃ、ごちそーさま。また来るね」 拓さんの言葉が処理出来ずポカンと立ち竦む俺に、拓さんはいつもの笑顔で手を振りながら扉をくぐっていってしまう。
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