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「……由実ちゃんって、髪、長い?」
「へ?」
唐突に尋ねられ、つい間の抜けた声が出た。
見上げると、カイさんは思案するように顎先に指を軽く添え、じっと俺を見つめている。
当然、今の俺が不意打ちの視線に平然など保っていられる筈もなく、頬に登る熱を必死に抑えながらたじろいだ俺に、カイさんはふ、と柔らかく目元を緩めた。
「オレの通ってた所はなんだけど、ヘアアクセ類には結構寛大でね。今ってヘアアレンジを楽しんでる子も多いみたいだし、そういうのはどう?」
「っ、なるほど、いいですね!」
明らかに不自然な返答をした俺に、カイさんは楽しそうにクスクスと笑った。
仕方ないじゃないか。膨らみすぎた感情は、手のつけようがない。
そこに緊張感のない笑みを向けられては、ぎこちなくなるのも致し方ないだろう。
誰のせいで、と恨めしい気持ちが湧き上がってくるが、カイさんに非は一切ない。
いってしまえば、惚れてしまった俺が悪い。
「カイさんって高校生の時、髪長かったんですか?」
誤魔化しがてら尋ねると、カイさんは笑みを止め戸惑ったように視線を彷徨わせた。
「カイさん?」
「あ、ううん、ずっと短いままだよ。ユウちゃん、前に髪結んでたでしょ? アレを思い出して、そういえばって」
「……よく覚えてましたね」
「ユウちゃんの事だもの」
こういう切り返しはいつも通りだ。
でもやっぱり……ちょいちょい気になる顔をする。
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