カワイイ俺のカワイイ危機感

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「助ける相手を、間違えないようにね」 「え?」 「さて、そろそろ行こうか。残念だけど、時間だし」 くるりと背を向けたカイさんが、一歩ずつ遠ざかっていく。 追わなければ、と思うのに、足が張り付いたように動かない。 (……相手を、間違えるな?) なんだろう、この、心の中に、次々と白い靄が充満していくような感覚は。 「っ」 やっとのことで動いた足。カイさんの隣に並び、自動ドアをくぐった所で俺はピタリと歩みを止めた。 カイさんが不思議そうに首を傾げる。なんとなく、その目は見れないまま口だけを動かした。 「僕、もう少しグルグルしていきます」 「……なら、ここでバイバイかな」 「はい、すみませんが」 「じゃあ、またね。ユウちゃん」 最後だけは、と無理やり顔を上げるも、カイさんは既に背を向けていて、遅かったかと視線を落とす。 頭の中に、まだ先程の言葉がベッタリとへばりついている。 『助ける相手を、間違えないようにね』 カイさんは、自分が"ヒロイン"の立場に置かれているなど、微塵も思っちゃいないのだろう。 悟られたらお終い、という視点だけに限っていえば、それはとてもありがたい。 だが、あの言い方は"自分なんて"と自身を卑下しているようで、とてつもなく気に入らない。 俺はこんなにも、"彼女"を眩しく思っているというのに。 「……よし」 腹を決め、意気込んだ俺は踵を返し、出てきたばかりの自動ドアをくぐった。
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