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「ああ。いちおう、夕食の献立考えてるって誤魔化したけど……」
「……誤魔化せました?」
「たぶん? 作りにいこうかって冗談言われたくらいだから、大丈夫だと思うけど……それがどうかしたのか?」
時成がスッと身体を引いた。同時に、膝に当たってた布の感触がなくなる。
どうせやるならお客様に見えるトコでやったほうが、と掠めた商売根性を喉元で押し留めたのは、変わらず時成が難しい顔をしていたからだ。
「……先輩、ちょっと休憩もらえますか。五分でいいです」
「お、おお……いってこい」
「ありがとうございます」
重々しい口ぶりで礼を告げた時成は、早足で控室に歩いていった。
理由も尋ねられずに、キッチンから出てきたオムライスを慌てて運ぶ。
つーかアイツ、あーゆー顔も出来るんだな……などと、成長した弟を寂しく思う兄ような気分に浸っているうちに、時成はすっかり"あいら"の顔で戻ってきた。
隙を見て「なんだったんだ」と訊いても、「ちょっとー」の一点張り。こうなったら、大人しく引き下がるしかない。
だが俺だって馬鹿ではない。
明らかな異変を感じたのは、レナさんにパンケーキを運んだ時だった。
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