カワイイ俺のカワイイ贈り物

7/23
前へ
/238ページ
次へ
レナさんは焼きたてのパンケーキにナイフすら手に取らず、先程中断されたせいで殆ど交わせなかった会話を楽しむように、ひたすら口を動かしていた。 それに頷きながら相槌をうっている最中、後方からガチャンと嫌な音が響いた。 (――っ、時成!?) どうやら食器を下げる途中に転び、お盆をひっくり返したらしい。 「すみませんレナさん」 口早に断りを入れて時成の元へ駆け足でよる。 「大丈夫?」 「すみません、ユウちゃん先輩ー。なんかツルッとしちゃってー」 「怪我は?」 「へーきですー」 転がり落ちたのは空の皿とフォークとナイフだけで、どれも割れたり欠けたりはしていない。 「失礼しました」と店内のお客様方へ頭を下げ、内股で座り込む時成の手を引いて引き起こす。 二人で食器を拾い上げ、床用のダスターで拭き、そのダスターを洗いながら俺はなるほどと当たりをつけた。 全ての鍵は、レナさんだ。理由はわからないが、時成は俺とレナさんを極力近づけたくないらしい。 だからああして、さり気なく妨害しているのだろう。 すっ転ぶのは、いささか強引な気もするが。 (けどま、そうだろうな) 時成が転ぶ姿など、初めてみた。
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!

145人が本棚に入れています
本棚に追加