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「……ユウちゃん」
「っ、すみませんレナさん。これ、キッチンに届けにいかないとで」
「……そうね、行っていいわ」
「ありがとうございます」
コウくんと話している間、レナさんが何度もこちらに視線を向けていたのは感じとっていた。
だからオーダーを取るまで動かなかったのだ。
きっと席を離れれば声をかけてくるであろうレナさんを、最もらしい理由で回避する為に。
時成が警戒する理由がわからないので、俺の良心がレナさんへの罪悪感にチクリと傷んだ。
「コウさん、久しぶりですねー。おれも挨拶してこよっかなー」
「……時成」
「なんですかー?」
不満顔で見上げた俺にも、時成はあいらの顔のまま涼しい顔で小首を傾げる。
「……ちょっとくらいは、いいんだろ」
じっと俺の顔を探るように見つめた時成は、数秒の逡巡のあと、仕方なそうに肩を竦めた。
「……いいですけど、ホントにちょっとにしてくださいー」
晴れて許可をもらった俺は、出来るだけレナさんとの接触を避けつつも、不自然にならない程度には数度言葉を交わした。とはいえ、レナさんからすれば、全然話し足りなかっただろう。
「今日はどうもタイミングが悪いみたいね」と剣呑に目を細めて帰っていった。
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