カワイイ俺のカワイイ贈り物

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(……まぁ、また今度訊けばいいか) そう思いながら外へと踏み出した俺に、拓さんが胸に手を添える仕草で「いってらっしゃいませ」と頭を下げた。 扉が閉まる直前、頭を上げた拓さんの唇は、「またね」と動いていた。 *** (そういや拓さん、今回は「よい夢を」って言わなかったな) 別に拘りがあるワケではないが、あの店のコンセプトでもある決め台詞をすっ飛ばした拓さんに、何となく違和感を覚えて俺は胸中で首をひねる。 あの人がうっかりで忘れる筈ない。 言わなかったのは、意図的だろう。 すっかり常連の域に達している上に、個人的な(といっていいものかは微妙だが。なんせ互いに本名も連絡先も知らない)接触を重ねているからと、親しい接客になっているだけなのだろうか。 だが俺はその直前の謎の礼もあり、どうにも引っかかりを覚えていた。 「……ゴメンね、ユウちゃん」 向かっているのは、吉野さんの喫茶店。 その道中、ポツリと落とされた謝罪に、俺はカイさんを見上げた。 「なんのコトですか?」 「その……さっき、拓さんが、あんな言い方して……」 あんな言い方? 咎めるように示されたのは、きっと『客』と称した事だろうが……。
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