146人が本棚に入れています
本棚に追加
/238ページ
演技で構わないから、受け取って欲しかった。
自身の胸中に押し込めていた感情を、重ねていたのかもしれない。
どうか戻ってこないで。
祈りにも似た心持ちで笑んでみせた俺に、カイさんがクシャリと顔を歪めた。
「っ、……ユウちゃんは、なんで」
(……なんで?)
尋ねるというよりは、戸惑いが零れ落ちたような呟きだった。
(なんで、か)
「あなたが好きだからです」と言えたなら、どんなに良かっただろう。
「……お礼と、遅い誕生日プレゼントですって。案外、人にあげるのが好きな性分なのかもしれません」
「っ」
カイさんが目を伏せる。
下唇を噛む仕草は、初めて見るものだった。
「……? カイさ」
「嬉しい」
「え?」
「演技とか、じゃなくて。本当に、嬉しい」
絞りだすように呟いたカイさんが、収められていたネックレスを取り出す。
唖然とする俺の前でカイさんはチェーンを首に回すと、数秒して首後ろから手を放し、俺をみた。
照れくさそうに、泣き出しそうに、真っ赤な頬ではにかむ。
「……ありがとう」
「っ!」
心臓がドクリと胸を打つ。
冷静だった筈の脳内が、一気に沸騰する感覚。
最初のコメントを投稿しよう!