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(っ、なんで、そんな)
演技ではない。心からの「ありがとう」。だから、わからなくなる。
折角、諦めようと思ってたのに。そんな顔をされては、また、とらわれてしまう。
硬直していた俺に、カイさんがクスリと笑んだ。
柔らかく緩められた瞳にはっと思考を切った俺は、顔に熱が登っていることに気づき、慌てて伏せる。
(っ、やばっ)
心臓がうるさい。めちゃくちゃ嬉しい。
この興奮を発散する方法を、誰か今すぐ教えてほしい。
「あ、でも」
少し沈んだ声に、視線だけをチロリと上げてカイさんを伺う。
「この服じゃ、あまり似合わないよね。ごめんね」
「……いえ」
確かに今のカイさんの男性よりの服装だと、華奢なネックレスは少し浮いているようにも思えるだろう。
けれど俺には、そんな調和は関係ない。
というか、贈ったモノを嬉しそうに身に付けた想い人を見て、そんな細かいことを気にするヤツがいるのだろうか。
「……すごく、似合ってます」
やっぱり顔が熱くて、呻くように告げた俺にカイさんは頬を緩める。
眩しい微笑みに「ああ、だめだ」と胸中で敗北宣言をする俺などお構いなしに、カイさんは大切そうに胸元へ手を寄せた。
「……大事にするね」
綺麗な鎖骨の上で、銀の波に包まれた水色が輝いた。
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