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沈み始めた陽は一秒毎に角度を変え、温かな暖色を少しずつ濃くして、包む青色にもジワジワと浸透していく。
白い頬の輪郭に陽の色を落とし、瞳を蕩けさたカイさんが形の良い唇を開いた。
「じゃあ、またね。ユウちゃん」
また、という単語に次も許された気がして、俺は「はい、また」と笑みを返して背を向けた。
結局、肝心な本心は告げられないままだが、コレはコレで良かったのではないかと歩を進めながら考えた。
胸中には確かな充実感。
カイさんがあのネックレスを身に付けてからの記憶は、夢のように白膜の霞がかかり、正直殆ど覚えていない。
口数はいつもより断然に少なかった。
それでも流れる時間は春の陽だまりのような心地よい穏やかさで、時折目が合っては微笑むカイさんの表情も、常より格段に豊かな感情を覗かせていた。
気の緩んだカイさんは、可愛いと思う。
(……格好いい、けど、可愛いとか、贅沢盛りかよ)
誰に対しての文句ではない。
未だ先程の余韻に浸ったままの脳が、本来の仕事を放棄しているだけだ。
(喜んでもらえて、よかった)
たまたま好みドンピシャだったのか、予想外の方向から誕生日を祝われた歓喜だったのかは定かでないが、想像以上の反応を思い起こし、心臓が甘く締め付けられる。
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