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が、記憶の糸を辿るように次いで思い起こされたカイさんの『異変』に、覆っていた桜色が木枯らしに一蹴された。
カイさんは、恋をしている。
(……困った、なぁ)
距離を置かれずに『許された』俺は、今後の対応を、自分の意思で選ばないといけない。
負け戦だとわかっている分、これまでよりも体当たりし易いと言えばそうだし、わざわざ砕け散る必要もないと、自身を防護する理由にもなる。
自分でも驚くほど、頭は妙に冷静だった。胸の内が、砂利混じりのコーヒーを飲んだように、重くザラついているだけで。
とりあえず、考えるのは一旦後回しにして、今日の報告を心待ちにしているであろう時成に連絡をしておくかと、鞄からスマートフォンを取り出す。
と、まるでタイミングを見計らったかのように、画面に着信が表示された。
発信者は時成。時刻は彼の勤務終了時刻から、七分ほど経過している。
どんだけ待ちきれないんだか。
嘆息して通話に切り替え、耳元に当てた。
「ったく、おま――」
『先輩、今、どこですか』
「へ?」
『カイさん、一緒ですか』
短簡的に畳み掛けられた問いから時成の緊張が伝わり、不穏が背筋を駆け上がった。
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