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反射で歩を止めた俺は、困惑に眉根を寄せ言葉に迷う。
『先輩』
急かすような声に、焦燥が滲む。
「あっ、と、さっきカイさんと別れて、駅向かってるとこ」
『周りに誰かいますか』
「まわり? いや、特にいないけど」
『カイさんと別れて、どれくらい経ちました』
「三分くらいか?」
時成が考えこむ気配が電話口から届く。
『先輩、すみませんが、カイさんが近場にいないか戻って確認してもらえませんか』
「別にいいけど……」
理解するよりも早くクルリと身体の向きをかえ、元来た路地を足早に辿っていく。
「一体なんなんだ? 店の時から、なんか変だぞ」
不審を隠すこと無く尋ねた俺に、時成がまた押し黙ってしまう。
時成個人の問題なら深追いせずに見ないふりで片付けてもいいが、レナさんにカイさんと波紋が広がっている現状、このまま知らないふりで協力する訳にはいかない。
無言の時成は逃げ道でも探しているのだろうか。
俺相手では下手な言い訳は通用しないと、アイツなら言わずともわかっている筈だ。
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