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店を出て最初の分岐点まで戻った俺は、左折して辺りを見渡すも、先の路地まで広がっているのは先程より茜色に近づいた夕焼け空だけだった。
細長い影を落としていたその人は、とっくに店に引き返したのだろう。当然だ。
「いないな」
告げると、時成が間を置いて『……そうですか』と呟く。
それから覚悟を決めたように薄く息を吸う音がして、『先輩』と届けられた硬い声に不安が満ちる。
『これは、確定ではありません。おれの杞憂の可能性が高いんですけど』
「ああ」
『カイさん、危ないかもです』
「……は?」
不穏な単語に、思わず目を眇めた。
時成は怯むこと無く、言い聞かせるかのようにはっきりとした発音で言葉を続ける。
『レナさんの言動と雰囲気からして、行動を起こすなら今日だと思いました。ただ、カイさんに向かうのか先輩に向かうのかは検討がつかなかったので、俊さんにお願いして、ユウちゃん先輩の後を追ってもらいました。おれにとって、優先すべきはユウちゃん先輩の安全なので』
「! あの時、俊哉に連絡してたのか」
『俊さんが直ぐに向かってくれたので、先輩の上がりに間に合って良かったです。先輩達が無事喫茶店に入っていったと連絡を受けて安心していたんですけど、さっき仕事終わってスマホを確認したら、知り合いからカイさんがいるって興奮したメッセージが届いてて……』
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