カワイイ俺のカワイイ本当

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時成の声が沈む。 『次いでここのフレンチトースト美味しいよって写真が来てたんですけど、その写真に、レナさんが写ってました。遠目だったのでピントは合ってませんでしたけど、あれは、間違いなくレナさんです』 「っ」 疑う余地を与えない明瞭な断言。心臓が存在を主張して縮む。 無意識に息を詰めた俺の動揺を察し、それでも理解を促そうと、時成は重々しく言葉を重ねた。 『あの喫茶店に、レナさんがいたんです』 夕暮れに冷えた風が、ざわりと肌をなで上げる。 スマフォを耳に当てたまま、俺は咄嗟に駈け出した。 先程別れを告げたカイさんの残像が赤い路地に浮かぶが、店前に辿り着き、周囲を伺ってみても、やはりカイさんの姿は見つからない。 (おちつけ、おちつけ) 焦りは思考を鈍らせる。わかってる。 なのに何度念じても、暗い穴の中から見える唯一の出口を徐々に閉じられていくように、精神から呼吸を奪われていくようだ。 確かに少し分かり難い位置にあるが、駅からそう離れている訳じゃない。 レナさんだって、うちの店以外の施設に寄ることもあるだろう。 時成の、俺の、杞憂かもしれない。 そう思考を誘導しようとした瞬間。
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