カワイイ俺のカワイイ本当

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「見つけたら連絡入れるから、携帯は手に握っててよ」 俊哉は俺の鞄のチャックを締め、肩を持って身体を回転させると、「はい、行って」と背を押す。 普段の頼りなさは微塵も感じさせない。そういえば、長男だった。 (とにかく今は、カイさんを見つけるのが先だ) 硬化していた脳にそれだけを刻みつけ、俺は俊哉を顔だけで振り返る。 「俊哉」 「ん?」 「……ありがとな」 せり上がってきた気恥ずかしさを悟られる前にと、俺は返事も聞かずに背を向けて駈け出した。 けれども何となく、わかってしまった。 俺の背を見送る俊哉が小さく吹き出していた事も、「がんばれ」と嬉しそうに相好を崩していたのも。 *** 単純に来た道を戻っても、カイさんには辿り着かないだろう。 日頃の運動不足に悲鳴を上げ始めた両足を叱咤しながら、俺は必死に裏路地を走った。 そういえば、美しさを妬まれた姫は『女王』に命を狙われ、狩人に逃された森を必死に駆けていたし、不思議の国に迷い込んだ少女はハートの『女王』に追われ、捕まるまいと逃げ惑いこれまた駆け回っていた。 『女王』ご執心の相手を物語のヒロインとするのならば、『王子』の姿をした彼女を見つけ出した暁には、『ヒロイン』の姿をした俺は王子になれるのだろうか。
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